10月に入り、ようやく本当の秋到来という空気になってきましたね。急遽発表されたoasisの追加チケットの争奪戦に敗北、ひたすら目と腰・肩の疲労だけが残るA子です。今年の夏を振り返ると、体調不良などで旅やフェスとは縁がなく、自宅で音楽コンテンツを見ている時間が長かった!フジロックやサマソニの配信で、普段好んで聴かないジャンルの音楽に手を出してみたのですが元気がないとほぼ頭がスルーしてしまい、結局印象に残ったのはもともと好きなバンドのライブ映像だったりドキュメンタリーだったり…。9月中盤にはだいぶ回復し、昨年初めて参加した「Peter Barakan’s Music Film Festival」他、いくつか映画鑑賞に行くことができました。今回はその中から映画「レッド・ベリー」の感想を書き溜めていたものを投稿しておきます。(昨年の投稿は↓)

「ロックの礎を築いた男 レッド・ベリー ビートルズとボブ・ディランの原点」

今回は角川シネマ有楽町にてピーター・バラカンさんのトークショー付きで鑑賞しました。春の公開時に見逃し音楽映画祭で上映されることを期待していたので嬉しかったです。この映画は、農園の労働者であったレッド・ベリーがどのような軌跡を辿って「アメリカのフォークソングの始祖的存在」となったのかを親族やミュージシャン、音楽文化の保全に携わる研究者などの証言とアーカイブ映像で振り返る作品です。親族の証言や本人の肉声インタビューや、ライブ音声などからは温かく人に愛されるキャラクターが浮かび上がり、生涯歌うことを愛していた様子が伺えました。「厳しい父が幼い彼に盛り場を見せないように気を配っていたのに、成長した頃には真っ先に禁止されたはずの盛り場に突撃した」、「自分がモテモテなせいで他の男から絡まれてトラブルに」など女性がらみのエピソードが語られて、やっぱりミュージシャンは昔から色気と切り離せないのだなと確信(笑)。彼は学校を訪問して子供たちと一緒に歌うのが大好きで、子供たちの方もみんな彼を大好きになってしまうという証言にはほのぼのしました。カルチャーの発掘や保全、ビジネスとは関係ない場所でも、目の前の観客をとにかく楽しませたい・一緒に楽しみたいと音楽を心から愛していたことが伺えます。声とパフォーマンスでストレートに感情を届ける魔法使いのようなエンターテイナーを前にして、きっと子供たちも夢中になったのでしょう。
一方で、彼の存命中に制作されたと思しき「レッド・ベリー物語」的テレビドラマ番組(ニュース番組の中の再現コーナーのようなものだそう)では、彼を見いだした民族音楽学者ジョン・ローマックスに対して「ご主人様」と呼びかけさせるなどあからさまに「白人に付き従う無知な黒人」という描き方をしており、当時のアメリカに濃く漂っていた差別の空気がリアルに感じられます。
彼とジョン・ローマックスの関係は、ローマックスが搾取していたような面もあり決して100%健全なものではなかったけど、あの時代において黒人のミュージシャンが活動していくにあたって必要悪みたいな部分もあったのかなとも感じました。良くない印象は拭えませんが、ひどい差別が横行していた社会の中で彼の才能を世に出すための手段だったのかもしれません。ジョン・ローマックスの孫にあたる女性がその辺りを客観的な視点からコメントされていました。
また、音楽文化の保全団体を代表して証言している方が全員白人だったり、シンガーのオデッタが「いつまで彼のことを語る時ローマックスに縛られなければならないの?」というような趣旨の発言をしていたりして、個人的感想ですが、文化を記録し評価する側に白人が立っているような印象を受けましたし、あらゆる権利関係のしがらみなども残っていることが示唆されていました。
長々と書いておいてなんですが、結局とにかく歌とギターが魅力的で素敵なのであらゆるミュージシャンから尊敬を集めているんですよね。自分のルーツに誇りを持っているところも。終盤に、彼をカバーしているミュージシャンの名前がずらずらーっとスクリーンに映し出されるのですが本当に幅広いです。ボブ・ディラン、ピート・シーガーやウディ・ガスリー、ジョーン・バエズはもちろん、ポール・マッカートニー、リンゴ・スター、レッド・ツェッペリン、ニルヴァーナ。そして、うまくカバー曲が探せなかったのですがホワイト・ストライプスの名前も。
もともとこの作品に興味を持ったのは、朝日順子さんのご著書「ルート66を聴く」やボブ・ディランの伝記映画「名もなき者」やNHKで放送されていたルート66にまつわるドキュメンタリーがきっかけです。日本とは良くも悪くも関係の深い国なのに浅くしか知らないアメリカ史でしたが、これらの作品のおかげで点が線になりようやく自分の中で少し理解ができるようになりました。

上映後のトークショーでは、直前まで朝日順子さんゲストを期待していましたが、聞き手のスタッフさんとお二人でのトークでした。1949年に亡くなったレッド・ベリーはマイクロフォンもレコードもない時代に生きていて、ギター一本の生演奏だけで何でも歌える「ソングスター」(あらゆる音楽ジャンルが細分化する以前のスターなので)になったのだとをバラカンさんがおっしゃって、彼の持つパワーや音楽のセンス・愛情、ハングリー精神がいかに大きいものだったか改めて考えさせられました。酒場での小競り合いの中で人を殺めてしまったことから「殺人者」という肩書を背負ったミュージシャンとして生きていかなければならなかった彼は、その分いつもきちんとした服装でメディアに登場していたというエピソードが印象に残りました。
ローマックスに関しては、バラカンさんの仮説としてジム・クロウ法の影響で北部の都市に黒人が大量に移住し、音楽の文化が失われてしまうことを恐れて記録を始めたのでは?とのことでした。長く刑務所に収監されている黒人受刑者が昔の歌を多く知っていると見込んで刑務所巡りを始めたのではないか、という説も。レッド・ベリーとの出会いを再現したドラマ的映像はローマックスが仕込んだもので、ローマックスが宿泊するホテルを訪ね「ぜひあなたのもとで奉仕したい」と懇願するシーン、運転手としてローマックスを送迎するシーンなどがありましたがやはり今では考えられないことだとバラカンさんもお話されていました。

鑑賞後に見つけたのですが、「アメリカは歌う。―歌に秘められた、アメリカの謎」、こちらの本を読むときっともっと理解が深まるのではないかと思いますので自分への宿題としてメモ的にリンクを置いておきます。よその街の図書館で見かけたため流し読みしかできませんでしたが、レッド・ベリーが取り上げている歌をはじめ、さまざまな音楽の分析が興味深かったです!
洋楽初心者リスナーからするととてもハイレベルな映画で、事前に「名もなき者」他の関連映像を観ていなかったら到底ついていけなかったと思います。まだまだ噛み砕けていない部分も多いですが多くのことを学べた作品でした!

↓春の公開時に行きたかった朝日順子さんのイベントの動画と、私が作ったプレイリストのリンクも貼っておきます。

2025年春の公開時のイベントの様子を公開してくださってます!分かりやすく深い解説
私のリサーチ力で探せたものをリストにしました

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です