さかのぼること約6年前。当時の勤務先近くで、「ボヘミアン・ラプソディ」仕様のラッピングトラックを目撃した私。QUEENのことをほとんど知らないのになぜかこの映画は観るべきものだとその時確信したのでした。
映画館で特に私をくぎ付けにしたのは、「Seven Seas Of Rhye」のレコーディング風景です。メンバー四人がキラキラした目をして理想の音を探求している様子が映され、ただ演奏するだけではなく音作りに全員が夢中になってまるで遊んでいるかのような姿が印象的なシーンです。メンバーの音楽に対する並々ならぬ創造性や音楽オタクとも言える性質がよく表れていますよね。
あれは決して誇張ではなく、全員がそれぞれ音楽が好きすぎるあまりに多方面からアプローチした実際のエピソードから作られたシーンでしょう。電子工学を学んだジョン・ディーコン自作のアンプが使われていたこと、ブライアン・メイの自作ギター「レッド・スペシャル」は有名なトリビアですね。
さらに、先日デビューアルバムのリマスター版を「QUEENⅠ」として発表しロック界屈指の音へのこだわりで世間を騒がせたことは今年のQUEENにとって最も大きな話題だったのではないでしょうか。
人の心の琴線に触れるような作品はそういう異常とも言える熱意、オタク心から生まれるのでは…ということで今回はそんな音楽オタクを初心者目線で紹介します。
Boston トム・ショルツ
MITで学士号と修士号を取得した後、ポラロイド社で働きながらミュージシャンを目指したトム・ショルツ。レコード会社に送り続けた音源は、なんと地下室に構えたスタジオでひとり宅録したものだというから驚きです。バンドメンバーがいない状態で、スタジオにこもり壮大な世界の基盤を作り出した(その後メンバーを集め改めてレコーディング敢行)デビュー・アルバム「Boston(邦題:幻想旅行)」はアメリカだけで1,700万枚以上の売り上げを誇るそうです。
私は今年の夏「EDGE OF ROCKS」展を見に行った時会場に飾られていたBoston2枚目のアルバム「Don’t Look Back」のアートワークで彼らを知りました(ギターを逆さにした宇宙船のようなビジュアルが大迫力です)。同時期にブログの大先輩音時さんの記事でも目にしていたせいか妙に記憶に残っていて、その後朝日順子さんの「ルート66を聴く」で彼らのストーリーを知り実際にその後聴いてスケールの大きなサウンドにハマりました。
現在のバンドはトム・ショルツ以外のメンバーが入れ替わっているそうですが、ぜひいつかライブで体験してみたいです。
BLEACHERS ジャック・アントノフ
テイラー・スウィフトやサブリナ・カーペンターをはじめとする超売れっ子アーティストのプロデューサーを数多く務めるジャック・アントノフ。私は先月の「ベストヒットUSA」で初めてお名前を知ったばかりですが彼もとても興味深い人。多忙なプロデューサー業だけでなく、ロックバンドFUN.や自身のソロプロジェクトでも活躍。数多くの音楽賞を受賞しています。
I need a hobby, and I don’t want it to be basketball … I want it to be music. So to get away from music, I do other music. If I’m producing someone’s song or writing with someone else, then doing a Bleachers song or a Fun song is an escape and it keeps me creative and it keeps me locked into what I want to do.
ジャック・アントノフ – Wikipedia
(趣味が必要で、それがバスケットボールであってほしくない…音楽にしたい。だから、音楽から離れるために、他の音楽をやるんだ。誰かの曲を作ったり、誰かと一緒に曲を作ったりしていると、ブリーチャーズの曲やファンの曲を作ることは逃避であり、それが私を創造的に保つ。)
自動翻訳なのでちょっとあやしい箇所もありますが、音楽の仕事からの逃避としての趣味がソロプロジェクトやバンド活動ということですよね!今回リンクで紹介したアルバムにはなんとオノ・ヨーコとのコラボ曲が。The Beatles愛を感じるオマージュ的な曲も収録されていて、最近ではブルース・スプリングスティーンとの共作もニュースになっているようです。深く広い音楽趣味が仕事に還元され、また自身のソロプロジェクトの進化につながり、さらに人の輪を広げるというサイクルができているんですね。(そういえば先月観たベストヒットUSAでは過去にスタジオに訪れた映像が流れ、イントロクイズに答える姿が楽しそうでした。ぜひまた出演してほしいなぁ)
Weezer リヴァース・クオモ
ROCK’IN SONIC出演&デビューアルバム30周年で話題のWeezer。当初はそのデビュー盤にプリントされたロックバンドらしからぬメンバーの姿が話題になったそう。それまで表舞台に出るバンドマンといえば派手な衣装やメイク、もしくは長身で容姿端麗…というイメージが固定していたため、そのどれにもあてはまらない地味なそのへんにいそうなオタクっぽい若者は珍しかったのでしょう。
音楽シーンに初めて登場したころのウィーザーはまさに、ヘヴィ・メタルを愛するオタク集団といったイメージのグループ
【動画付】ウィーザーのベストソング20:ポップの概念を変えた名曲たち
特にボーカルでありメインソングライターのリヴァース・クオモは、実際に音楽オタクを極めています。アルバムを何枚もヒットさせた後、音楽を学ぶためにハーバード大学に入りなおしたというエピソードも(しかし英文学へ転向したそう)。
また、彼は日本文化にも関心がありセカンドアルバムのジャケットは浮世絵を用い、オペラ「蝶々夫人」からタイトルを借りた曲も収録されているというほどです。また、愛用のギターにでかでかとくまモンステッカーが貼られています!その日本文化好きからなのか奥様が日本の方であるというのが公に知られているそうです。
https://www.udiscovermusic.jp/stories/weezer
影響を受けた憧れのミュージシャンにガンズ・アンド・ローゼズを挙げているそうで、彼らに近づきたいという思いからロサンゼルスに移住したというのも何だかものすごいファンのような感じでちょっと笑ってしまいます。
Weezerの、力強く鳴るギターサウンドと切ない歌声は理想のタフな自分と実際にそれを叶えられない現実の自分との乖離のようなものも秘めているようで、何かなりたいものがあるけれどなれなくてもがいている人の心に刺さるような音楽のように感じます。
おそらく、あらゆる世界でプロとしてやっていくだけの人は誰しも何かの「オタク」といわれるほどの物事にのめり込む力を持っているでしょうし、本当は知られていないだけでほとんどの人がそうなのかもしれませんね。
彼らの音楽を聴いて、辛い気持ちを少し昇華させてみたり自分も何かできるかも!と少し前向きになったりして今年あと2か月乗り切っていきたいものです。