公開から少し遅れましたが、観てきました!
もともとTake Thatもロビー・ウィリアムスも自分があまり聴かないジャンルという思い込みがあったので、映画の予告を観る以前はほとんど何の知識もない状態でした。とにかく、あまり陽気な人間じゃない反動なのか(?)ミュージカル映画は予告編だけでたいてい観たい観たい楽しそう~!と大騒ぎしてしまうため、この映画も即気になる観たいリスト入りをしていました。ということで以下初心者目線の覚書となります。
ロビー・ウィリアムスについて
イングランド出身、現在51歳。オーディションを経てダンスグループTake Thatのメンバーとしてデビューし、後に脱退。現在はシンガーとして活動、作詞も手掛けているそうです。本国UKではソロとして史上最高のアルバムセールスを記録、ブリットアワードでも史上最多の受賞歴を誇るほどの国民的スター(Wikipedia、映画告知用フライヤーより)。
ストーリー・制作スタッフ
イギリスで生まれたロビー・ウィリアムスは、1990年代初頭にボーイズ・バンド”テイク・ザット”のメンバーに選ばれ、チャートトップを連発するポップスターになる。しかしその一方、10代にして世界的なスターダムにのし上がったことによる不安とあくなき夢を追い求めるなかで、愛されると同時に常に他人の目にさらされるつらさに苦悩する。仲間や大切な人との出会いと別れ、そして人生の絶頂とどん底を体験した、彼が選んだ人生とは――
映画「ベター・マン」告知用フライヤーより抜粋
伝記映画ということで、ロビー・ウィリアムスの少年時代から音楽業界デビュー、ブレイクと挫折、再生を描くストーリーとなっています。本人役は猿の姿をしており、身体は役者さんのモーションキャプチャーによる撮影。眼球だけはロビー・ウィリアムス本人のものだそうです。
制作スタッフは以下の通り。
監督:マイケル・グレイシー
脚本:サイモン・グリーソン、オリバー・コール、マイケル・グレイシー
プロデューサー:ポール・カリー
配給:東和ピクチャーズ(日)/パラマウントピクチャーズ(英)
ネタバレなし感想
笑わされ泣かされ、大集団のダンスやライブステージの再現にワクワクさせられ、ミュージカルならではのおとぎ話のようなCG表現は華やかだったりホラーのように背筋が冷たくなったり、盛りだくさんな作品です。観終わってすぐに「あれ好きだったなぁ」と目に浮かぶシーンがいくつもありました。
物語の軸になっているのは普遍的な人間関係や自己肯定といったことなので、Take Thatについてほぼ事前に予習することなく観ても問題なくストーリーは追えます。
(90’sの音楽やファッションのブームやUKのざっくりとした地理が頭に入っている方が楽しめるとは思いますし、曲を知っている方は選曲予想しながら観るというのもいいですね)
なぜ主役が猿の姿なのか?ということについては、伝記映画で必ず起こる似てる似てない論争を避けるなどいろいろすでに語られているようですが私の個人的感想としては「生々しい下ネタが和らぐ」「対立する主要登場人物とのコントラストを生みやすい」などと考えました。
一番は「表情や手足の動きがどんなにオーバーでもそれが自然に見える」ということかもしれません。実物の彼の写真や映像もそうですが、劇中でもわざと道化役を演じたり仮面としての笑顔を作る場面で口の大きくしわ(体毛も?)で表情の変化が分かりやすい猿の姿を借りることが効果的になっているように感じました。一方で、全く動きがなく感情も表に出なくなってしまう場面では意思疎通できない人形のようにもなり観るものに不安を与えるような感じもありました。
この映画はどんな人におすすめか?ともし書くならば、誰しもが一度は悩む肉親との関係や、叶えたい夢についていつまでも手放すことができずずっと引きずっている人(自分のような)。
何も解決はしないけど、感情を解き放って、「周りの人を大事に」「調子のいい時ほど落ち着いて」みたいな人生の教訓を人間はなぜ何度聞かされても失敗してしまうんだろう?なんて自問自答してみたりするのはどうでしょうか。
ネタバレあり感想
具体的に自分の記憶にひっかかったシーンなどを記録しておきます。
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・細かな描写
水や氷などの質感がものすごく丁寧に描写され、呼吸音などをとても繊細に拾っているように感じました(といっても最近観た映画は全てそういう傾向があるのですが)。車で暴走し水面に突っ込んで溺れ、水面に出ようともがくシーンなどはその繊細さのおかげで自分が体験しているような息苦しさでした。恋人ニコール・アプルトンとの別れへつながるヘドロのような液体にバスルーム全体が沈み込んでいくシーンや自宅の庭の池に静かに浮かびながら父とやりとりするシーンも、液体に沈んだり浮かんだり、髪や衣服が濡れてみじめな姿になってみたりととても画面全体の印象を水(液体)の質感が浮き上がらせています。
・芸能界の闇
最近ショービジネスの世界でのさまざまなハラスメントや悪しき慣習が明らかになっていますが、物語の中にもいくつかの事例が登場します。
まずデビュー当時のTake Thatの過激すぎる衣装。当時まだ10代だったメンバーはもしこれがイヤでも断れないんだなぁと思うとちょっと笑ってしまった後背筋がヒヤッとするような気がします。
そして、ニコールに対して会社が堕胎を強制するシーンも、華やかに見えるミュージシャンでしかも若い女性である彼女の立場の弱さを表していてとても辛いものでした。
そしてアルコールと薬物などの依存についての問題です。
有名になりたい、自分の才能を試したいと自ら芸能界に飛び込んだはずのロビーはあっという間に成功と挫折・再びの成功を味わいますが、その精神を保つために依存したのが抗うつ剤とアルコール、ドラッグです。その副作用はすさまじく、日常生活の破綻やオフステージの彼の生気のなさがストーリーが進むにつれて明確になっていきます。憧れたはずのネブワース公演が、重すぎるプレッシャーによって自らのゾンビのような分身との肉弾戦になってしまうシーンは、表現のすさまじさに驚きつつ切ない気持ちになりました。
・父との関係
この物語の重要人物となるのがロビーの父です。成長を支えてほしいタイミングで家庭から逃走し、スターの父としてロビーの元に戻ったのにもかかわらず手をさしのべるべきタイミングでロビーから目を背けた父。エンターテイナーとしての才覚は父から受け継いだという自覚からか、関係を断ち切らず父との関係に希望を抱き続けるロビーの姿は痛々しかったです。それでも、彼の場合は最終的に父との関係を修復することができたのがすごいことです。
(ジョン・レノンにヒプノシス関係者にOasisと名だたるUKのミュージシャンからデザイナーにいたるまで父不在の家庭が多くて知るたびに毎度驚きます…。ギャラガー兄弟のように父の存在を断ち切るよりも長い消耗戦で辛かったことと想像します)
・エンドロールのメッセージ
「つらい思いをしている人が周りにいたら手をさしのべよう」というメッセージが、エンドロールの中に流れ日本語訳が付けられていました。
2025年の今ではSNSなどを使って気軽に誰でも情報発信ができてしまう時代。
オーディションを受けたり組織に所属しなくても、限定されたコミュニティの中でまるでアイドルのように収入を得たりちやほやされることも可能です。90年代よりもハラスメントの被害に対して声を上げるなどはしやすくなった反面、他人と比較してメンタルを病んでしまう人は変わらず多く存在するのでは?特に華やかさきらびやかさに憧れたり影響を受けやすい若い世代の方に、この映画を通してメンタルヘルスの重要性や様々な依存症の怖さも伝えているのかもしれないですね。
劇中では芸能の世界で摩耗し、本当に自分を大事にしてくれているのは誰なのか、自分にとって大切なものは何なのかをロビー自身が何度も見落としたり見ないふりをするシーンが描かれます。家族や友人の存在、美しい音楽や芸術に純粋に感動する気持ちなど自分の辛さを癒してくれる存在をいつも心に留めておきたいものです。
自分がそう思えなくても”You’re enough.”と言ってくれる人は宝物ですね。
悪役リアム
予告を観た直後にこの映画をネット検索した時から、どうやらギャラガー兄弟がこの映画に何らかの形で登場するという情報を得まして、そういう意味でも気になっていました。
90年代のUK音楽業界での競争相手であり特にリアム・ギャラガーにとってロビーは元妻の元カレというややこしい間柄。現在は和解しているものの長い間不仲の期間があったらしく今作では悪役として登場するという評判でした。実際に観た感想としてはかなりガラが悪いものの、悪役度はそこまでという印象でした。最近、クリエイションレコーズのアラン・マッギー主役の映画「Creation Stories」があると知ったのですがその映画でリアム役として登場した俳優さんとなんと同じ方(Leo Harvey-Elledgeさん)が再び演じているんです。
「今後オレの役はこいつに任せた」的な本人のお墨付きを得たのでしょうか…
まとめ
栄光と挫折、再生を描いたストーリーは数多く存在しますが、あの映画/ドラマ/本と同じようなストーリーでしょ?とスルーしてしまうのはあまりにもったいない!どのストーリーも、その人だから描いたオリジナルの軌跡があって、それを脚本家や監督がどう捉えたのかや俳優がどう演じるのかで全く違うものになると思います。
そして、もとの楽曲の素晴らしさやストーリーの展開に沿ったミュージカル的演出(音楽とダンス、ファンタジックな場面転換)が噛み合っていてとてもエンタメ作品としても楽しかったです。
さかのぼること6年、QUEENの知識ほぼなしの状態で観た「ボヘミアン・ラプソディ」。これがあまりに自分に刺さり、それ以来よく知らない方の伝記映画でも興味を持ったら観るようにしていましたが、やっぱりその方針はずっと貫いていこうと改めて思いました。