久しぶりに音楽ドキュメンタリー映画を鑑賞してきました。私が好きなグラフィックデザインがメインテーマ&ノエル・ギャラガーも出演、これは観なくてはと楽しみにしていた「ヒプノシス レコードジャケットの美学」です。この作品の監督は写真家でもあるアントン・コービンで、彼はU2などのレコードジャケットに多く自分の作品を提供していることでも有名だそうです。
この映画の主役は、60-80年代のイギリスで華々しく活躍したデザイン集団「ヒプノシス」。
グラフィックデザイナーのストーム・トーガソンとポーことオーブリー・パウエルが結成、その後ピーター・クリストファーソンが加わり1983年に解散するまで多くのアートワークを手掛けたそうです。彼らが手掛けたレコードジャケットは数多く、特にピンク・フロイド、ジェネシス、レッド・ツェッペリンの作品が有名とのこと。洋楽の知識が全くなかった頃の私も、強烈なあの牛(『原子心母』)ジャケットなどは印象に残っていました。
はじまりは、ケンブリッジのとある街の一角に若者がたむろし始めたこと。そのメンバーの中でピンク・フロイドとこのヒプノシスが結成され、ロンドンへと移りそれぞれ音楽とデザインで頭角を現していくんですね。芸術院で写真を学んだ彼らは、写真を大胆に使用しバンド名もアルバム名も載せない、レコード会社の重役が激怒するようなデザインを次々に発表します。アートとして通用するレコードジャケットを定着させたのは彼らの功績が大きいようです。
その後、大物ミュージシャンが彼らを指名するようになりどんどん歴史的な名盤と言われるような作品に関わり巨大な富と名声を手にしたヒプノシス。音楽業界の狂乱ぶりに呼応してぶっとんだスケールの撮影をしたり制作現場で無理難題に挑戦したり、現代の感覚なら炎上必至の制作エピソードが次々と語られます。これらはぜひ、爆音で流れる曲と一緒に劇場で観て驚いてほしいです。
そして60~70年代の音楽業界の裏話では必ずと言っていいほど登場するドラッグ。
ヒプノシスにとってももちろん例外ではなく、良くも(インスピレーション的な意味で?)悪くもLSDの影響が大きかったとポーがインタビューで語っています。ちょっと名前を失念しましたが登場する女性のコメントで「目の前にあるテーブルが形を失い、色だけになるの」「原子だけになる」という表現があり、幻覚が毒々しい色調や有機的な形を多用したサイケデリック風のアートの源になっていたことが伺えます(以前観た「モンタレー・ポップ」のライブ映像でも、オイルとガラス板を用いて有機的な模様を背景に映し出すというサイケデリックな演出があったのを思い出しました)。
もちろんそのインスピレーションの代償は大きく、精神的にも肉体的にも支障をきたすケースがほとんど。薬物のせいだけではないかもしれませんが、病んでしまったシド・バレットのエピソードは切なかったです。
こちら↓の監督は亡くなるまでストームが務めたんですね…
映画は、レコードジャケットよりもミュージックビデオに注目が移ってゆき、ストームとポーの蜜月もともに終わりを迎えたところまでを描いています。解散後長い間ストームとは顔を合わせなかったと語るポーの顔が寂しさを感じさせ、観客は序盤から示唆されていたストームの不在を改めて突きつけられます。最後まで、和解することなく喧嘩別れだったのでしょうか。
怒りも悲しみも感動も、すべて人と人が起こす化学反応なんだなとエンドロールで登場人物たちの名前を見ながらしみじみとしました。
以下、細かいエピソードの中で私が気になったものをいくつかメモ的に記しておきます。
・少年時代に出会って溜まり場で遊んでいたメンバーには父親不在の家庭が多かったそうです。ジョン・レノンもそうですが戦争の影響でそういう家庭が多かった時代なのでしょうか。
・10ccのレコードジャケットに使われたフォントはこのTシャツと同じ(ロジャー・テイラーも80年代に着用していました)。このジャケットがきっかけだったのかちょっと忘れましたが、この黒みの強いヘヴィなデザインが80年代にレコードジャケットとファッションどちらでも流行だったようです。
・ノエル・ギャラガーはピンク・フロイドメンバーに次ぐ長時間のコメント出演。
自分自身のレコード愛と、世代間でのレコードジャケットに対する感覚の違いを娘アナイスちゃんとの会話からユーモアを交えて語っています。あの有名な1stアルバムのジャケットが実は…など、Oasisのエピソードも。
・ポール・マッカートニーはウイングス時代にヒプノシスを指名、何度か共に仕事をした際のエピソードを語っています。長年のファンの方にはおなじみの映像かもしれませんが、「Band On The Run」ジャケットの撮影風景映像が流れ、モデルとなったポールやリンダらにどんどん指示をするストームの姿が映っていました。和気あいあいとして楽しそうな撮影風景でした!
・バーが舞台となったこちらの↓ジャケット。6人の人物がいるなら6つの視点から見た写真を撮ろう、というアイデアで6種の異なるジャケットを制作。しかも中身が見えない紙袋に入れて販売したという、時代を先取りしすぎているエピソードがすごすぎました。もうすでに有名なエピソードではあるそうなのですが、ストームの発想力と「売られたケンカは買う」感がたまらなくカッコいいなと感じました。
この6種類のジャケットはクラフト紙の外袋に入れて密封され、購入して袋を開けるまでどのジャケットを購入したか分らないようになっていた。さらに内袋にはモノクロの特殊印刷がなされ、水で濡らすと発色するようになっていた。本作もジャケットにはタイトルなどは一切記載されず、曲目やクレジットなどの情報は内袋に記載されている(ただし、外袋にはタイトルと曲目が印刷されていた)。
ヒプノシスのストーム・トーガソンはこのデザインについて「アルバムのサウンドにぴったり来ると思ったからこのようにした」と語っている。モデルを務めた男はトーガソンの友人であるという。茶色い紙袋に入れるというアイディアは、ピーター・グラントから「ツェッペリンなら茶色い紙袋に入れたって売れる」と言われ、「だからその通りにしてやった。で、彼の言うとおりになったってわけだ」と語っている[9]。
イン・スルー・ジ・アウト・ドア – Wikipedia
・一番最後にコメントするのは〇〇〇(これもぜひ劇場で観てほしいです)。
↓こちらの紹介記事も楽しいです!