「この曲は彼らの大失敗作」「いや最高傑作だ」、とネット掲示板やYouTube、SNSで誰でも気軽に音楽批評ができるようになってかなりの年数が経っていますよね。それ以前ならラジオやテレビ、雑誌への投稿がそれにあたるのでしょうか?
ブログを書いている私A子はそろそろ40歳になるのですが、現在60~90年代の音楽を多く聴いており多くのバンドについては完全に「後追い新規リスナー」です。そんな私が買い集めたCDの中でも、いくつか表題のようにファンをどよめかせた作品があります。今回はそれについていつものように初心者目線で紹介していきます。
なぜ「異色作」「問題作」と呼ばれるのか
あるバンドが結成され、ヒット曲をリリースするまでにはいろいろ試行錯誤の道のりがあります。そして「ちょっと路線変更」でファンの間口が広がってヒット、または「このまま突っ走る」と決めて時代の変化とうまくかみ合ってヒットなど売れ方もいろいろです。
最初にバンドにとってのビッグ・ヒットとなった曲にあまりにもパワーがあると、バンドにとって一部分にすぎないある面だけがメディア等でクローズアップされてしまい、ファンもその一部分だけを求めてしまうという現象が起きてしまいがちなのかもしれません(もともとジャンルをいくつも横断しているようにプチ路線変更をいくつもしているバンドなどはファンも変化に慣れているので、その現象が起きにくいような傾向があるようにも思います。)。ファンがバンドに対して「こうあってくれ」「こうはならないでくれ」と思い描く熱量が大きいほど、作品が想像と違った場合に生まれる感情がネガティブなものになりやすく、「問題作」扱いが起きるということも多々ありそうです。
他にも、異なる音楽ジャンルや国のムーブメントを取り入れてみたがまだ先進的すぎて理解されなかったというパターンや、ビジュアル面の刷新やメンバー入れ替えなどの理由でリスナー層が大幅に入れ替わったなどの理由もあるかと思います。発表当時の社会情勢などもおそらくリアルタイムであれば影響するでしょうから、発表当時うまく自分にフィットしなかった音楽を数十年寝かせてから聴いてみるというやり方で再度チャレンジするのは楽しい試みになりそうです。
「異色作」「問題作」を聴いてみよう!
ここで私が持っている音源の中で「問題作」扱いなものをいくつか紹介します。
「UNION」YES (1991)
まずは最近来日公演が大大盛り上がりだったというYESが解散、分裂状態からのReunionという試みをした「UNION」。14枚目のアルバム…で良いのかどうかちょっと数え方がわからないくらい複雑です。メンバー間のゴタゴタで問題山積、という当時のエピソードがライナーノーツやいろいろなネット記事で読めます。ツアーが先に決まっていてそのための突貫工事アルバム制作だった…というのがなんともすごいです。時代もプログレ全盛期からは下って90年代、ニューウェイブやメタルの匂いも感じるようなアルバムになっていて、ダンスミュージックのような曲もあったりしてずっと驚きと違和感の積み重ねのような感覚が続きます。力強く美しいハーモニー、強力なベースラインが奏でられたかと思えば切ないアコースティックギターの旋律がやってきて…と一曲ずつ魅力たっぷりです。初めて聴いた「Fragile」、この後に購入した「Close To The Edge」に比べると、アルバム全体が物語という感じではない作品に感じます。その辺りが低評価をする人にとってマイナス点なのかもしれません。
「Standing On The Shoulder Of Giants 」Oasis(2000)
Oasisのスタジオ・アルバム4枚目となる作品。前作「Be Here Now」からすでに凝ったMV制作やオーケストラとの共演など、世界的に名を轟かせるビッグ・バンドになった感満載だったOasis。このアルバムではなんといってもオリジナルメンバーであるギグジーとボーンヘッドが脱退という大きな出来事が制作中に起きています。また、これ以前所属していたレーベルが財政難で閉鎖となりこのアルバムから自分たちが立ち上げたレーベルに移ったそうです。そのせいかは不明ですが、アルバムの制作期限が定められておらず、これまでとは異なる機材でサイケデリック・ロック趣味を探求した実験的な曲が多いということもあいまって、「俺たちのOasis」を期待いっぱいに待っていた初期からのファンにとってはちょっと想定と違うアルバムだったのかもしれないですね。大観衆が大声で歌うというのが想像しにくい曲揃いかも。私はサイケ好きなので音がしつこいほど重い感じのこのアルバムは全体的に楽しんで聴けました。「Go Let It Out」ではMVでベースを弾くノエルが見られたり「Magical Mystery Tour」オマージュ的映像が見られて面白いです。
「Hot Space」QUEEN(1982)
私の愛するジョンのファンク趣味(フレディも)炸裂アルバムと言われているのがこの作品。ホーン・セクション、電子ドラム、シンセがアルバム全体で鳴り響いています。映画「ボヘミアン・ラプソディ」ではアルバムのプロモーションシーンが象徴的にフレディのメンタル崩壊の表現に使われていたり、ロジャーとブライアンどちらもこのアルバムに対して肯定的な発言があまりないので不遇な印象でした。「売上が良くなかった」「このアルバムでファンが離れた」というようなエピソードもネットでちらほら見かけたり…。しかし実際に聴きこんでみれば、80年代の流行を強く感じるもののQUEENらしさで貫かれた聴きごたえのあるアルバムだと感じます。このアルバムを褒めない(笑)ロジャー、ブライアン作の曲からはこの時代の流行をこう咀嚼したのか~というような聴き方もできます。特に、ジョン・レノンが殺害された事件を反映して作られた追悼曲「Life Is Real(Song For Lennon)」をはじめとして広い意味での愛情がテーマになっている曲が多いことも特徴なのではないでしょうか?また、しっとりした「Cool Cat」、デヴィッド・ボウイとのデュエット「Under Pressure」などフレディの表現力の底知れなさを味わうにもうってつけのアルバムだと思います。そしてどの曲でもジョンのベースに聴き惚れます…。公式YouTubeチャンネルで最近「Cool Cat」キャンペーン的なことを行っていたので、もしかするとロジャー&ブライアン二人の心にも再評価の波が来ているのかも?
後追いリスナー目線ではどうしてもリアルタイムで体験した衝撃にはかなわないため、「結局どれもよくない?」的感想になってしまうのですが、まだまだ体験するチャンスはあるので楽しみにしています。また気づいたものがあったら同じテーマで記事にするかもしれません!
誰かにとっての「問題作」、ある誰かにとっては「最愛作」になり得ます。